全日本選手権の男女シングルスを振り返って

 選手たちがフロアを踏み鳴らす音。ラバーが発する金属音。ピンポン球がコートで跳ねる音。
そして、自らを鼓舞する裂帛の気合い…。さまざまな音が錯綜した東京体育館。
 
 今回の全日本選手権、男子シングルスでは若手の躍進が目立った。特に青森山田高・中の選手が実力を存分に発揮し、高木和・水谷・横山・大矢・松平賢・松平健の6人がランク入り。
しかし、決勝を戦ったのは2人の社会人選手、昨年度チャンピオンの吉田海偉と、38歳のベテラン・松下浩二。やはり、勢いだけでは優勝できないのが全日本ということだろう。
表彰台でバンザイだ!吉田!
表彰台でバンザイだ!吉田!

 吉田は大会を通じて、決して好調とは言えなかったが、決勝でも最後まで集中力を切らさず、勝負を決めた第6ゲーム終盤での強気の攻めは見事だった。
松下浩二もチームマツシタの社長として昨年12月のトヨタカップを主催するなど、1月に入るまではほとんど練習量を確保できなかったはずだが、その戦いぶりには若手選手を寄せ付けない貫禄があった。
 
 女子シングルスには、男子シングルス以上の層の厚さを感じる。
そして、シェークドライブ型に偏りがちに男子選手に比べ、女子の戦型は実に多彩で、それぞれに確固たる個性を持っている。
善戦した松下、ネットインにも泣かされた
善戦した松下、ネットインにも泣かされた

 優勝したバックショートの名手・金沢をはじめ、パワフルな強打を連発する勝ち気な小西、変化の激しいハイトスサービスからのミート打ちが得意な藤沼、そして、早い打球点での正確な速攻プレーを展開する福原…。
 その他にも完成度の高い両ハンドドライブ型・梅村や、今回はランクに入れなかったが、日本女子の秘密兵器と言われるツブ高速攻の福岡など、グリップも用具も様々だ。
 最近の全日本選手権は総じて男子よりも女子の試合のほうが盛り上がるが、これは愛ちゃんの存在だけでなく、多彩な戦型と変化に富んだラリー戦が観客の目を引きつけるという部分もあるのではないか。観客たちも、男子選手のドライブの引き合いには、やや食傷気味なのかもしれない。
 
 2006年1月15日、今年の全日本選手権も終わった。
そして全日本が終わった日から、また来年の全日本への鍛錬の日々が始まる。

Today's福原愛
福原、試合後の記者会見でのコメント
福原、試合後の記者会見でのコメント

●福原、試合後の記者会見でのコメント
「今は、全日本選手権がおわったんだなという気持ちです。(勝敗のポイントとなったのは)7ゲーム目、5対2でリードしていたのに、そこから逆転されてしまった。
自分で何やってんだろう……という気持ちでした。次はどの試合になるのかわかりませんが(明確な目標はないけれど)、一度休んで、次の試合で頑張りたいです」

敗れはしたものの、中国スーパーリーグでの成長ぶりを見せてくれた福原。
今年4月にドイツ・ブレーメンで行われる世界選手権・女子団体戦では、日本女子チームの主力としての活躍が期待される。

惜しくも敗れた福原、スーパーリーグでの成長は見せたぞ!
惜しくも敗れた福原、スーパーリーグでの成長は見せたぞ!

ツッツキからの駆け引きに緊張感が漂う
ツッツキからの駆け引きに緊張感が漂う

●女子シングルス準々決勝
福原と藤沼の一戦は、高速バックハンド対決。
昨年の全日本社会人選手権では、両面裏ソフトで登場した藤沼、今大会はバックを表ソフトに戻し、速射砲のような連打で福原のフォアサイドを攻める。
ハイトスサービスも相変わらずの威力だ。一方の福原もすばやい切り替えとサイドワークで藤沼の速い攻めに対抗、3ゲーム目は8−10から逆転する。
ピッチの早いラリーは息をもつかせぬ迫力、まさに世界トップクラスの速攻戦だ。
 最終ゲームにもつれこんだこの試合。他の3試合はすべて4−1で終了し、会場の注目はこの試合に集中。
 5−2で福原リード、しかし藤沼もバックハンドで福原のドライブを弾き返す。藤沼9−8と逆転。
 ここで強烈な3球目攻撃をバッククロスに打ち抜く強気なプレーを見せ、最後はストップ対ストップで福原がミス。ゲームオール11−8。
 今年の全日本選手権、これまでで最高のゲームだった。
藤沼(ミキハウス) −7、5、−11、7、8、−8、8 福原(グランプリ)


試合速報
★金沢選手の記者会見でのコメント

「6月から8月まで手首の故障でまったく練習が出来ず、自分の卓球人生も終わったと思った時期もあった。いろいろな人の支えがあって、ケガも治って、この優勝ができたので、本当に支えてもらった人たちに感謝です。今大会では、梅村さんとの準々決勝と決勝が苦しかった。とくに小西さんには、選考会で負けているので、少し作戦を変えた。それがうまくいきました」。

●女子シングルス決勝
金沢咲希(日本生命・大阪) 8、−10、−7、7、8、−5、6 小西杏(アスモ・静岡)

女子シングルスのチャンピオンに金沢咲希選手!

女子シングルス決勝もハイレベルな戦い。
金沢咲希は冷静なプレーぶりで、あまり声を出さず、淡々と試合を進める。
そのバックショートはまさに職人芸。女子の中でも威力のある小西のドライブに対し、横回転を入れたショートでフォアに動かして、バックにプッシュするパターン。
フォアハンドの攻撃力はそれほど強くないものの、ラリーになれば打球点を落とさずに相手を押し込んでいく。
 小西の調子も決して悪くない。最近の全日本ではベストと思えるほどの動きの良さ。
 金沢のショートに対して粘り強くドライブで攻め続け、金沢のフォアに効果的にボールを集めてポイントを稼ぐ。
 最終ゲームまでもつれ込んだこの試合、金沢が最後にフォアハンドでの仕掛けを見せ、小西を振りきった。小西はよく善戦したが、2度目の決勝進出も優勝はならなかった。

★金沢選手の優勝インタビュー
「決勝は挑戦者のつもりでやりました。優勝は…、嬉しく思います。世界選手権では日本のために頑張りたいと思います」

パワードライブ吉田海偉、今年は苦しみながらも連覇達成!
パワードライブ吉田海偉、今年は苦しみながらも連覇達成!

●男子シングルス決勝
吉田海偉(日産自動車・神奈川) −2、12、9、−9、5、5 松下(グランプリ・大阪)

 昨年の男子シングルス6回戦で決勝の相手、松下選手に4−1で勝ち、決勝では偉関晴光選手を完璧なプレーで打ち破った吉田海偉選手。
 今年の決勝も、松下選手のカットを打ち抜いていくかと思われたが、決勝での戦いぶりはむしろ慎重だった。
 逆に松下選手は1ゲーム目を取らないと苦しくなると、出足からスタートダッシュをかける。カットよりもドライブを多用するプレーで、1ゲームを先取。
 吉田の調子は昨年に比べると決して良くなかった。松下は前後の揺さぶりにも容易にミスをせず、チャンスボールを送ってこない。それでも、フォアクロスへ曲がりながら沈むドライブと、ミドルへ決まるパワードライブが次第に威力を発揮。吉田がゲームカウント3−2でリード。
 第6セット、吉田がスタートダッシュで5−0とリード。松下がタイムアウトを取り、ここから追いすがるが、なかなか差を詰め切れない。吉田が9−5のリードから、松下がチャンスボールを連続スマッシュ、吉田バックでよくしのぎ、なんとフォアサイドへ曲がって入ってくる松下のスマッシュを中陣からドライブで打ち返し、止めようとした松下のラケットを弾き飛ばした!
 このスーパープレーで勝負あり。吉田が2年連続の優勝を決めた!

 大会後の優勝インタビューで2連覇の実感を聞かれた吉田選手。「去年1年間はあまり調子が良くなかった。だから2連覇は本当に嬉しいです。今年は去年よりきつかった。優勝は最高です!」と答えた。優勝は当然という感じだった昨年とは違う。今年は苦しんだ分だけ、涙の優勝だった。

 松下もフォアドライブ、カーブロングを織り交ぜて吉田に善戦。チームマツシタの社長として昨年12月25日に行われたトヨタカップをプロデュースするなど、練習量が確保できない中での決勝進出はすばらしい成績だ。

善戦した松下、ネットインにも泣かされた
善戦した松下、ネットインにも泣かされた

小西、決勝進出! 勝利の握手だ!
小西、決勝進出! 勝利の握手だ!

●女子シングルス準決勝
小西(アスモ) 11、10、−8、12、6 藤沼(ミキハウス)
金沢(日本生命) 3、5、7、−8、−4、9 西飯(健勝苑)

●杏ちゃん完全復活! 悲願の全日本優勝なるか?
 小西vs藤沼は、四天王寺高の先輩・後輩対決。小西のフォアドライブが冴えた。
 何本でも返ってくる藤沼のブロックに対しても、すばやい戻りから前・中陣でフォアハンドを連打し、決定打で抜いてしまう。
 動きの良さ、競り合いでの強気な姿勢、小西杏・完全復活の気配だ。2度目の進出となる決勝戦で、女王の座に着くことができるか。

サウスポー金沢、堅実攻守で決勝進出
サウスポー金沢、堅実攻守で決勝進出

●鉄壁のバックショート 金沢咲希、安定感バツグンの勝ち上がり

 金沢vs西飯は、第3ゲームまでは金沢のワンサイドゲーム。
 金沢のバックショートの安定感は特筆もので、とにかくミスがなく、打球タイミングが早いために、相手が次第に打ちあぐむという展開になる。
 しかし、西飯も決勝進出の貴重なチャンス。第4ゲームから思い切ってバックサービスに切り替え、この作戦が適中。金沢のリズムが崩れて、2ゲームを西飯が取り返す。第6ゲームも競りあったが、金沢の攻守の安定感がまさり、決勝進出を決めた。
 敗れたとはいえ、西飯由香は右手首の手術から見事な復活劇。貴重なペン表速攻として、国際舞台での活躍にも期待したい。

坂本は松下のカット・ツッツキの変化に翻弄された
坂本は松下のカット・ツッツキの変化に翻弄された

●坂本竜介、松下浩二の壁の前に沈む
ドイツから帰国し、全日本選手権に臨んだ坂本竜介が松下のカットを打ち崩せず、準決勝で敗退した。
しかし、今大会、初のベスト4入りを果たし長く期待されていた坂本はようやく実績を残した。
「浩二さんには歯が立たなかったけど、自信になりました。岸川、水谷などの下からの突き上げが強くて、それがプレッシャーになっていたけど、去年くらいからそういうことを気にせず、自分は自分と考えました。今回も成績が悪ければナショナルチームからはずれると思っていたけど、これで世界選手権の代表のチャンスも出てきたと思います」と坂本は試合後に語った。

吉田海偉、今年も決勝へ。ミスのないバック系技術でパワードライブに結びつけた。
吉田海偉、今年も決勝へ。ミスのないバック系技術でパワードライブに結びつけた。

●男子シングルス準決勝
吉田(日産自動車) −10、13、10、3、5 倉嶋(協和発酵)
松下(グランプリ) 10、8、4、8 坂本(青森大)

●吉田海偉、今年もパワープレーで決勝へ

 吉田海偉は、昨年12月の日本リーグ後期で敗れている倉嶋(協和発酵)と対戦。
 倉嶋の打点の高い3球目攻撃に苦しめられ、第1ゲームを落とす。しかし、ラリー戦になればなるほど威力を発揮するのが吉田のパワードライブ。
 第2〜3ゲームを競り合いながらも制すると、第4ゲーム以降はエンジン全開、中陣に下げられてもバックのしのぎからフォアドライブで逆襲し、倉嶋に勝利した。
 倉嶋もフォアドライブで互角のラリーを展開したが、最後は押し切られる形で敗れた。  

速攻・藤沼、バックの速射砲が復活!
速攻・藤沼、バックの速射砲が復活!

●女子シングルス準々決勝
小西(アスモ) −9、8、7、4、8 岸田(日本生命)
藤沼(ミキハウス) −7、5、−11、7、8、−8、8 福原(グランプリ)
金沢(日本生命) 5、9、−5、10、7 梅村(日本生命)
西飯由(健勝苑) 4、11、−10、9、3 佐藤(卓球王国NT)


強い小西が帰ってきたぞ!
強い小西が帰ってきたぞ!

●梅村vs金沢はペンとシェークのハイレベルなラリー戦
元チームメイトということもあり、金沢の堅固なバックショートは梅村の強打を何本も弾き返す。
この対決の勝者が優勝か、と思われるほど、サービス・レシーブからの展開は厳しい。結局、ミスのない攻守で金沢が制した。
●西飯由vs佐藤は、右ペン表と左ペン裏のペンホルダー対決
全日本の準々決勝で、ペンホルダー同士の対戦は近年では稀なことだ。
勝負の分かれ目となった第4ゲームを制した西飯由香が、第5ゲームは3−3から9本連取。
ここまでスーパーシードを連破し、大会の台風の目となっていた佐藤に勝利した。
●小西vs岸田。パワーと頭脳のぶつかり合い!
小西vs岸田は、クルクルとラケットを回して出す岸田の変化サービスに小西が両ハンドで対抗。
昨年の全日本社会人選手権で復活の優勝を果たした小西、久々に心身ともに充実。
パワープレーにミスがなく、岸田を制した。

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